【対談】建築家・伊礼智×弊社代表・谷口弘和
丁寧な家づくりの先にあるもの
~100年、生きる家のために「変えるべきもの」と「変えてはいけないもの」
谷口工務店の家づくりの源流は、建築家・伊礼智氏が考え、実践し続けている「丁寧な家」。伊礼氏の手による緻密な図面は、現場を預かる大工に設計時点での思いを余すことなく伝え、その力を最大限に発揮させてくれます。
弊社代表・谷口弘和が、全国に多くのファンを抱える伊礼氏にお話を伺いました。
伊礼さんのつくる家を見たら、もう居ても立ってもいられない。すぐに「伊礼イズムの家づくりをやる」と社員全員に伝えました。(谷口)
谷口弘和(以下、谷口)
伊礼さんとお会いした最初は、2012年。ある社員がいつも伊礼さんのブログを読んでいるのを知り、何かピンとくるものがあったんです。だからすぐに連絡をして、伊礼さんの事務所まで押しかけさせていただいた。
伊礼智氏(以下、伊礼)
私は人との相性、信頼できそうかどうかを大事にするんです。谷口さんと言葉を交わしたとき、「この人は信頼できる」と思えた。そこで、当時できたばかりのある工務店さんのモデルハウスにお誘いしたんです。
谷口
そのモデルハウスを見たとき、雷に打たれたようなショックを受けました。現代の数寄屋のようで「自分がつくりたいと思っていたのはこれだ」と感じたんです。そこですぐに会社へ戻り、これからは「伊礼イズムに沿った家づくりをやる。イヤな人は辞めてほしい」と社員全員に伝えました。
伊礼
谷口さんは、中途半端な人じゃない。実践すると決めたことは、すぐ、そして必ず行動に移す。これは普通、なかなかできないことだと思いますね。
谷口
でも、誰ひとりとして会社を辞めるといったものはいなかった。「私たちも、この家づくりを学びたい」と言ってくれたんです。
設計の本質は提案。顧客の言いなりになるだけでは、本当に喜ばれる住まいはつくれない。(伊礼)
伊礼
気をつける必要があるのが、「顧客の要求に応えることだけが、注文住宅である」という勘違い。ほとんどの場合、顧客は家づくりの素人であり、必ずしも詳しい知識があるわけではない。すべての希望を叶えようとすると、住みにくい家になったり、やたらにコストが高く付いたりすることも珍しくありません。
谷口
いわゆる「御用聞き」になってはいけない、と。
伊礼
はい。顧客が本当に求めていることは何かを考え、さらに顧客が気づいていなくても配慮しておくべきことを考え、「提案」をしないといけない。設計の仕事って、本質的には提案なんです。
谷口
弊社でも、その提案する力を上げようと努めています。提案力の向上に必要なことはなんでしょうか?
伊礼
社員一人ひとりが本当に良い仕事をしている人たちと触れ合い、経験を重ねることに尽きるでしょうね。私はよく「目を養い、手を練り、耳を澄まし、喉を潤し、よく笑い、即実践(目を肥やして、技術を身につけ、他社の言葉に耳を傾け、信頼できる仲間と一緒に飲んで、楽しく働き、決めたことはすぐにやる)」なんて言っています(笑)。
谷口
その一つひとつの経験を生かしながら、お客様の現在や未来を真剣に考え、ご期待を上回る提案をしていくわけですね。
釘の一本まで手を抜かず、心を込めて打っていく。
良い大工仕事は、そうした思いの積み重ねによって生み出されると思うんです。(谷口)
谷口
伊礼さんがよく言われる「丁寧な家づくり」という言葉。伊礼さんが考える「丁寧さ」って、どういうことなんでしょうか?
伊礼
設計事務所における丁寧な仕事は、「しっかりと図面を描く」ということです。でも、なかなかこれをやる事務所が少なかったりするんですよね(苦笑)。
谷口
伊礼さんの図面は量も多いんですが、細かな部分までしっかりと指定してくれる。「窓の納まりのところが少しわかりにくいかな」と思ったら、スケッチをつけてくれたりもする。大工からすると、施工に集中することができて本当にありがたいんです。
伊礼
私自身、師匠たちからそうするように指導を受けてきましたから。自分ひとりで家をつくれるわけではないので、現場に思いを伝えないことには始まらない。
逆に谷口さんが、施工を行うなかで心がけている「丁寧」は、どんなものですか?
谷口
当たり前かもしれませんが、「手を抜かない」ということですね。お客様の顔を頭に浮かべながら、釘の一本に至るまで「綺麗な仕上がりになれ、使いやすくなれ」と思って打つ。たまに口に出してしまうときもありますが(笑)。良い大工仕事は、そうした思いの積み重ねによって生み出されるんじゃないでしょうか。
顧客から「伊礼さんに頼んでよかった」「どうしても伊礼さんにお願いしたい」と言われるのが嬉しい。(伊礼)
伊礼
そうした丁寧な仕事を続けていった結果、顧客に喜んでもらえたときは嬉しいですよね。「伊礼さんに頼んで良かった」と言ってもらえたり、「伊礼さんに家づくりをお願いしたい」と指名されたりすると、大きなやりがいを感じます。
谷口
まったくその通りですね。うちはオーナー様との関係が良いのが自慢なんですが、竣工してから何年も経った方とお会いすると、「谷口さんのところにまかせて良かった」と言ってもらえたりする。この一言に、どれだけ報われることか。
伊礼
感謝の言葉を素直に受け取るためには、自分に嘘をつかず、手を抜かずに仕事をするしかないんです。そうした丁寧な家づくりを、リーズナブルで多くの方に手が届きやすいものにするため、私は「標準化」に力を入れています。
標準化は、けしてチープなものではない。長い時間をかけて「これなら間違いない」というところまでブラッシュアップしたものを生かすので、クオリティも高いんです。
谷口
そのうえで、お客様の思いを汲み取っていく。
伊礼
敷地の特徴を生かすのも重要です。標準化されたものを使いながらでも、顧客の思いや敷地に合った家づくりをしていけば、この世にたった一つの住まいをつくることができるんです。また標準化と言っても、技術の進歩やノウハウの蓄積に伴い、バージョンアップさせていくことも大事。これは「変えるべきもの」ですね。
谷口
逆に「変えてはいけないもの」は、お客様の信頼に応えようという思いですよね。
伊礼
その通りです。谷口さんのところには、本当に多くの社員大工がいて、新たな人材育成にも熱心。大工の力をフルに発揮しながら顧客の信頼に応える工務店として、さらなる飛躍を期待しています。
伊礼智(いれい・さとし)
建築家。1959年沖縄県嘉手納町に生まれる。1982年琉球大学理工学部建設工学科卒業後、東京芸術大学大学院美術研究科に進学し、奥村昭雄先生の研究室にて建築を専攻。丸谷博男+エーアンドエーを経て、1996年伊礼智設計室開設。現在、自らの主催で住宅デザイン学校も実施。
2016年からは、東京芸術大学美術学部建築科非常勤講師に就任されています。